「偶然とはいえ、またもや」

 悪いことは束になって襲い掛かってくるようです。
 10月5日は、立教法科大学院の井上治典教授に続いて、立教大学文学部キリスト教学科の名取四郎教授が、御帰天なさってしまいました。

 名取先生には、経済学部の学生だった2001年度、全学共通カリキュラム「キリスト教思想と美術」「美術の歴史1」を受講していただけに、哀惜なる思いには一入のものがあります。

 先生には、美術鑑賞において実にさまざまなことを教えていただきましたが、その最たるものに、ダ・ヴィンチの名画「モナ・リザ」の鑑賞法がありました。

 この絵は、どこを見るのか。背景に広がる幻想的な風景にこそ、注目して見なければいけない、と先生はおっしゃったのです。これは、忘れられません。
 なるほど、そんな見方があるのかと、衝撃を受けたものです。

 先生のご専門は、地中海世界の古代末期ならびに初期中世の図像学でしたが、ルネッサンスにおいては、建築のブルネッレスキ、彫刻のドナテッロ、絵画のマザッッチョの3人の偉大さについて、常に言及していました。

 先生の近著に、分担執筆ながら、『新西洋美術史』(西村書店)と、編集者でもあった『岩波キリスト教辞典』(岩波書店)の2冊が、あります。
 いずれもその世界では、代表的な刊行物ですので、お手に触れることをお奨めします。

 最後に、ぼくは立教では都合6年間、学生として学んだのですが、その間最もdandyな教授として印象に残っているのは、キリスト教芸術(音楽)担当の皆川達夫(名誉教授)先生と、この名取先生だったことは、是非とも記しておきたいことです。

 なお、名取先生はカトリックだったので、ご逝去にあたり御帰天という記述を採用しました。