「本田竹広逝く」

 ジャズピアニストの本田竹広さんが、さる12日心不全でお亡くなりになりました。
 享年60歳。2度にわたる脳内出血を乗り越えて復活を果たした、奇跡のピアニストでした。

 ぼくは1977年、渡辺貞夫グループの一員としての本田を初めて聴いてから、NATIVE SONを経て、今日に至る本田の軌跡を音で辿って、まさに惜しみて余りある死を受け容れなければいけないその不条理に耐えつつ、彼の遺作となったCDを今聴いています。

 それは、「紀尾井ホール ピアノリサイタル」と題された2005年7月31日のライブです。

 そこで彼は、ベートーベンの「月光」を弾いています。
 途次、名曲“Eu Te Amo"=I love youを経て、最後は、お父君が作曲された宮古高等学校校歌に至る、この記録は、まさに本田が命を削って演奏した、魂を揺るがす傑作として、彼の死後も長く長く我々を慰撫してくれることになるでしょう。

 彼は、このリサイタルを無事終えたことで、自らの命を縮めてしまい、我々に素晴らしい置き土産を残してくれたのです。