「巧妙なる役人」

 安倍内閣が発足し、新たな法相(長勢甚遠)が決まりましたが、杉浦正健前法相は、1993年に後藤田正晴法相が死刑執行を再開して以来、5ヶ月以内に退任して判断を求められなかったとされる4法相を除けば、「法相の判断」として執行しなかった唯一の法相でした。

 そもそも、杉浦氏は法相への就任会見で死刑執行について、「私はサインをしない」と明言した(1時間後に撤回)ほどですから、確信的な死刑執行反対論者です。

 そんな大臣を迎えた法務省の事務当局は、大臣の任期最終盤まで法相と、攻防を繰り広げました。
 それは、「中長期的には死刑廃止でいいかもしれないが、社会がこれだけ犯罪被害者に振れている中では、手順を踏まないといけない」という考えが、法務当局にあるからです。

 法相に対し、こんな説得が今夏、行われたそうです。
 「職責を全うした大臣が終身刑の創設を法制審議会に諮問するなら重みが違うが、今サインしなかったら逃げているだけだと思われますよ」と。

 あるいは、「今までの功績が台無しになります」と。

 このように、巧妙にいわれるても信念も変えることがなかった杉浦氏に尊敬の念を覚えた次第です。
 ただし、ぼくは必ずしも死刑廃止論に与するものではありません。
 この場合の尊敬とは、役人のいいなりにならなかったことを尊敬している、ということです。