「千住真理子さん」

 お名前を存じてはいても、ほとんど興味をそそられることがなかった人物に、あるきっかけで俄然引き込まれてしまう、ということはよくあることです。
 朝日新聞教育欄に、毎週日曜日「おやじの背中」という連載ものがありますが、昨日はバイオリニストの千住真理子さんが登場しました。

 それを読むとお父様は、慶應義塾大学名誉教授だった千住鎮雄氏。
 お兄様は日本画家の千住博氏(京都造形芸術大学学長)と作曲家の千住明氏(「映像音楽の魔術師」)という具合に、ぼくなんぞ足元にも到底及ばないエリート一家のお一人だという出自が、嫌味を微塵も感じさせずに、語られています。

 たとえば、お父様は、「兄の出産で苦しむ母のそばで、陣痛の時間を折れ線グラフにしていた」といった具合に。

 その真理子さんが、20歳の頃、バイオリンから遠ざかった際に、お父様はこう言ったそうです。
 「ダイヤモンドは放っておくと普通の石と同じで全く光らない。何度も磨いたり傷を付けたりすることで輝き、強い石になる」
 結びの「父こそ本当のアーティストだったのかもしれません。」という言葉が、鮮烈に読む者の胸に届きました。

 ちなみに千住真理子さんは、慶應義塾大学文学部哲学科のご卒業という、音大に学ぶのが普通とされるプロのバイオリニストのなかでは、極めて異例の学業生活を送りました。
 年齢的に、先頃お亡くなりになった、哲学エッセイストの池田晶子さんとは、慶應の哲学科で同じ講義を受けたこともあるはずです。