「『公共経営論』レポート」

 土曜日は結構な確率で公務が入り、なかなか大学院の講義を受けることができません。

 今日は、久しぶりに土曜日の登校と相成ります。
受講する科目は、「公共経営論」「経営科学」「現代人権論」「現代人権論研究演習」の4科目です。
 それが終わったら、新橋で落語を二席勤めます。

 今日は、「公共経営論」の研究発表です。
 それは下記の通りです。
「公共経営論」1 梅田次郎著 『意識改革と政策形成』
三重県庁における自治体組織運営の変革プロセス

【要約】
 三重県が事務事業評価システムを導入した狙いは、職員の意識改革と政策形成能力の向上を図るためであった。
 それは、自治体職員の意識構造は、明治以来の中央集権体制によって、創造性より中央政府への配慮を何よりも優先させていたという一種の宿痾に冒されていたからであり、三重県はその克服を志向したのである。
 この改革は、1995年から始められ、それは「伝統的経営」から「企業的経営」へ、そして「ネットワーク型経営」へと至る戦略を構築するものである。

1. 本稿の目的
 三重県が事務事業評価システムを導入し、その効果があらわれるにつれて、行政側には、住民の信頼と協力を得ることが自治体行政にとっては重要であるという認識が徹底され、住民側には、行政は権力者や統治者ではなく地域の公共的問題を解決するうえでのパートナーであるという意識が、浸透し始めることになった。
 事業評価システムを導入した狙いは、職員の意識改革と政策形成能力の向上である。
 では、三重県はその職員の意識のどこをどのように変えようとしたのか。

 その前に、行政の具体的な運営に関する経営モデルとして、下記の4類型を提示する。
それぞれに関して、行政の経営モデルの基本的な性格を《基本原理・規制様式・基本価値・国民(対象)・供給の焦点》の観点から、それを下記に列挙した。
          基本原理  規制様式 基本価値 国民(対象) 供給の焦点
1、 伝統的経営     法律   遵守   信頼性  有権者    公正性
2、 企業的経営     経営   計画  目標志向  顧客     目標達成
3、 市場的経営     競争   契約  費用志向  顧客     価格・質
4、 ネットワーク的経営 関係   協働  相互利益  市民     仲介

上記のうち、企業的経営は再生化と委譲化に、市場的経営は外部化に、ネットワーク的経営は再生化と自己組織化・協働化と密接に関係する。

 このうち、三重県の改革モデルは、伝統的経営から企業的経営へ移行させる試みを行い、最終的にはネットワーク的経営に到達させることを指向している。

2. 意識改革と評価システム
2.1. 意識改革の方向
 過去に行われた自治体職員の意識構造の調査結果によると、下記のような指摘があった。
1、 安定志向−仕事は受動的にこなすものという意識が蔓延している
2、 自己本位−先例主義や法への過度な依拠
3、 希薄な危機意識−財政に対する危機意識が希薄
4、 勤労意欲の欠如−業績評価が不適切⇒税収の増加なし
5、 組織運営における連絡・調整事務の非効率
6、 職員の参加意識の欠損

上記の意識構造は、三重県の職員も共有していた。
最大の悪弊は、終身雇用と年功序列の流れのなかで公務員としての社会的ステイタスと生活の安定感に満足してることである。
 つまり、管理職だけが職場での存在感を持つのではなく、職員が政策形成や決定過程に参加する必要性は感じてはいるものの、それを克服する意欲に欠けるところがあった。
 したがって、下記のような変革を職員に要請した。
1、 安定感から不安定感へ−不安定感が、過去の延長線上で前例に倣って仕事をすれば免責されるという意識を破壊してくれる。
2、 役所起点から生活者起点へ−事業目的を地域住民の視点から精査
3、 予算獲得主義から成果を問う決算重視主義へ−事業量から事業の質的な成果を重視
4、 前例体質から挑戦体質へ−前例主義から未来予測と課題解決に向けた挑戦の体質へ
5、 情報公開による共同責任意識へ「公開が原則、情報共有化」
6、 上意下達による抑圧感から参加によるやりがい感へ

2.2. 意識改革の第一歩
 評価システムによる意識改革は、多くの場合、現状のままでは評価ができないことに気づくことから始まる。
 自治体の実践を通じて見えてきた、自治体の政策過程の問題点について、以下のような指摘がある。
1、 自体体の政策には、目標がなく、事業執行そのものが目標になっていた。
2、 自治体の政策には、予算に従って執行されており、体系性がなかった。
3、 自治体の政策には、計画性がなかった。
4、 自治体の政策には、コスト意識がなかった。
5、 自治体の政策には、決定・執行責任が生じてこなかった。
6、 自体体の政策には、評価基準がなかった。
最大の問題は、本来であれば、総合計画にしたがって日常の行政活動を進めなければいけないのにもかかわらず、総合計画をすぐれた計画と意識している職員が4分の1しか存在しないということである。
つまり、職務はほとんどの場合、個別の計画にのみ基づいて行われているのが、実態である。
その背景には、補助金行政の弊害を指摘することができる。
予算編成の際、「国の補助金の有無」が最大の決め手になっており、総合計画は等閑視されている。

2.3. 意識改革を促す評価システムの仕組み
 評価システムは、?政策体系の中に事務事業を位置づけたうえで、?事務事業の目的を明確にし、?評価を行う仕組みである。

2.3.1. 目的の評価
 目的が生活者起点であるかどうか、つまり、手段よりも、目的の評価を優先させた。
 具体的には目的を、「対象」「意図」「結果」の3要素に分解する作業から始める。
 行政は自由裁量の余地を残すために対象を広く取る傾向にあり、結果的に対象があいまいになりがちなので、対象を厳密に限定してとらえることが、従来との根本的な違いである。
 個別の事務事業では、その対象と意図を過度に意識するあまり、事務事業の上位にある施策が忘れられがちになるので、上位の施策と下位の施策とは、あくまでも「目的」と「手段」の関係にあることを徹底させる。
 つまり、総合計画に基づく評価の重要性を再認識させることによって、補助金中心主義からの脱皮を図る。

2.3.2. 成果指標による目的の評価
 上記目的の具体策として、「成果指標」を設定した。
 これは、目的の3要素のうち、対象と意図を具体化したものである。
 その際、目的の達成度を図ることは数値目標を設定して目標管理を行うことである。こうして初めて、どのプロセスに成果向上余地があるのかが分かり、目標管理がきめ細かく行われるようになることによって、成果指標が共通言語として確立される。
 ここで重要なのは、成果指標となる数値が既存の統計にないとすれば、生活者起点のデータを創出する作業を通じて、公共の新しい価値を提案し、作り出すことになる、ということである。

2.3.3. 評価の重点
 評価の手順として、政策体系における目的の妥当性の評価を行うことをまず考えた。
 体系的に妥当な場合には、次に、あるべき状態にどれだけ近づいたかという成果に焦点を当てることに有効性を導出した。
 その次に、効率性の評価である。
 この評価作業は、職員の総参加による自己評価方式とした。そのことによって、現場に、政策体系の普及を強いたのである。

2.4. 評価システムに対する懐疑への見解
 評価論の隆盛は、現今の行政システムの制度疲労に乗じた考え方という見方に対して筆者は、「行政システムの制度疲労」が評価システムの必要性の鍵であると考える。
 それは、中央集権型社会から地方分権型社会への移行に伴いながらも、行政職員の政策立案に関する関与には、大きな変化はすぐには訪れないからである。

 そうは言いつつも、自体体の政策形成として望ましいのは、外部主体(議会、住民)と首長と内部主体(行政職員)の3者の影響力が均衡を保った多元的構造パターンである。
 喫緊の課題である、内部主体に変革をもたらすためには、これまで問われることがなかった政策の“目的”を明確化することであり、政策の企画立案能力の向上である。

3. 意識改革の検証と変革プロセスの進展
3.1. 調査結果に見る姿
 三重県職員の意識改革はどのように進んだのか、それを調査の結果に基づき検証する。

3.1.1. 評価システムについて
 特徴的なことは、課長級以上の管理部門では評価システムを肯定的に捉えているのにたいして、実務部門では、あまり評価していないことである。

3.1.2. 意識改革と職場・マネジメント特性・満足度について
 三重県職員の全体的な特徴として、他の意識と比較してコスト意識の浸透が最も進んでいることである。
 それに比して、顧客志向はその浸透が最も遅れている実態が浮かび上がった。

 違う調査によると、職場の機能的側面は強化されビジョンは共有されているものの、職場の共同体的側面は弱くなり、和やかさが薄れている様子が伺える。

 個人的に興味を引かれたのは、職員の能力・意欲特性は、35〜40歳が最も低く、50代以上は顕著な伸びが見られるという調査結果であった。
 各種調査結果から確認できることは、以下のとおりである。
1、 課長級以上の役職者の意識改革は進んだ。
2、 コスト意識は浸透したものの、顧客志向は未達成である。
3、 意識改革は、出先機関よりも本庁で、執行部門より管理部門で進んだ。
4、 満足感や仕事のやりがい感は、課長級以上では高位にある。

3.2. 変革プロセスの進展
 顕著な成果として、事業数1997年度3381本が、2000年度2075本に減少したことが挙げられる。
 事業数の減少は、評価システムが機能することによって、職員が庁内を横断的に見ることができるようになったからであり、意識改革の結果としての効果である。
 庁内システムの顕著な変革例として、下記のものを挙げることができる。
1、 総務部の権限縮小
2、 情報公開の進展
3、 率先実行運動の展開
4、 勤務評価制度の導入

3.2.1. 議会の変革
 知事部局の改革と並行して、三重県議会の改革も進められた。
 その第一歩として、議会運営委員会をはじめとする全ての委員会の審議を公開対象としたことと、全国に先駆けて、議会文書を情報公開の対象としたことが挙げられる。
 そのなかでは、「三重県行政に係る基本的な計画について議会が議決すべきことを定める条例」が、可決成立したのはその現れであろう。

 主な検討課題として、下記の4点が挙げられている。
1、 政策評価を議会として行う
2、 開かれた議会運営の実現
3、 独自の政策提言と政策立案の強化
4、 事務局による議会サポート体制の充実

3.2.2. 労働組合の変革
 2000年5月に、「対立・交渉・妥協」と表現されがちな従来の労使関係から脱却し、双方が対等と信頼を基本としたパートナーとする共同アピールを発表し、「労使協働委員会」を設置した。
 これは、県民満足度と併せて職員満足度も向上させていく実践の場である。そこには労使が癒着することを禁じ、県民に説明できないことは止めようという決意が伺われる。

3.3. 評価システムの到達点
 三重県は2002年度、評価システムを拡充し「みえ政策評価システム」として構築し直すとともに、総合計画「三重のくにづくり宣言」の数値目標との整合化を徹底させた。
 評価は、施策・基本事業・事務事業という3つのレベルで評価を行うこととし、それぞれの評価の目的を明確に分けた。

4. 三重県の改革モデルとガバナンス
 進展しつつある三重県の変革プロセスのキーワードをあげると、生活者起点、成果志向、目的手段の合理性、数値目標と達成、情報公開、権限委譲、分権、自立、協働、パートナリングである。
 そこで志向されたのは、県庁の組織文化を、組織の使命と目的を定めてその達成のために計画的に経営する企業的風土に転換しようとしてきた。
 行政は企業と同じように経営できるわけではないが、ネットワーク的経営に至るため戦略上経過しなければならないものとして、企業的経営への移行は絶対に推進させなければならないことと著者は考えている。

【検討】
1、この論文は、「官から民へ」という大きな政治的潮流に対して、行政をどのように変革すべきなのかという視点から書かれたレポートである。

2、公共団体と企業は明らかに異なり、企業であれば当然のことでも、公共団体となると免責されることが過去には多々あった。
 それを改善させようという、ごく当たり前のことを進めようということを筆者は、提唱している。
 それは顧客志向であり、タックスペイヤーへの貢献を志向しようという当然のことを推進することである。

3、日本では顕著な官尊民卑という、官へのお上意識を払拭することが、健全な市民社会の醸成にもつながると思われるが、そのために、まず官を内発的に変革しようという試みである。

5、 改めて公務員における首長の重要性に目が向けられた。
首長に改革意欲がなければ、その公共団体には、到底変革はもたらされないであろうと、強く再認識させられた。