「『アラビアのロレンス』は実に面白い」

 デヴィド・リーン監督によるアカデミー賞を受賞した名画、『アラビアのロレンス』ももちろんお奨めですが、今回採り上げるのは、中野好夫による岩波新書アラビアのロレンス』です。

 ぼくが、映画『アラビアのロレンス』を観たのは、中学1年の時でしたから、その面白さを十全に感得することができたのか、といえば、かなり心許ないものがありますが、今回、新書判とはいえ本で読むと、あらためてアラビアのロレンスの偉大さ、風変わりさを味わうことができました。

 ロレンスの何よりも興味深いところは、本文によれば“事実矛盾をきわめた彼の正体は、彼自身にすら不可解であったのではあるまいか。”と中野が記しているところです。

 “人間ロレンスの秘密を解く鍵の一つは、まず彼の中にいた完全に相対蹠的な二人のロレンス―いいかえれば、かなりの自己露出癖と、反対に、ときには病的なまでの自己隠蔽性とが、異常に交錯し合って彼の中に存在していたことにあるのではあるまいか。”  
 このような人物伝が、つまらないわけがありません。
 また、本書は、アラブ叛乱が宗教運動のそれではなく、あくまでも民族運動であったことを踏まえてのロレンス伝なので、小著ながら、映画を観たときに分からなかったアラブ世界のことが、簡明直截に記されており、その意味からでも好著です。