「小谷野敦『日本の有名一族』」

 小谷野敦『日本の有名一族』―近代エスタブリッシュメント系図集―(幻冬舎新書)を読んだところ、その舌鋒の鋭さに、他人事ながら心配したものです。

 本書は、第一章政財界の華麗なる血脈、第二章近代文学の祖を継ぐ者たち、第三章明治・大正の文学界、光と闇の系譜、第四章昭和の文学界、激動と変革の系譜、第五章知られざる学界の血筋、第六章古典藝能の名家をたどるという構成となっています。

 たとえば、細川通隆は、東大資料編纂所教授を勤めたが、“学者としての業績はないに等しい。”だとか、鳩山由紀夫鳩山邦夫両代議士は、“今のところ、一郎に継いで首相になる可能性は低い。”と、直截に記している。

 ただ、記述漏れ、不備も目立つ。

 羽仁進の妻は、左幸子だったが、その後、幸子と離婚し、その妹時枝と再婚したことには触れていない。
 湯川秀樹の項で、その甥、小川岩雄に触れていないのも不自然。
 古今亭志ん朝師匠の前名は、三遊亭朝太ではなく、古今亭朝太。
 現林家正蔵師が師事したのは、林家木久蔵(現木久扇)師ではなく、一門の林家こん平師匠。

 なによりも、第五章で、法学会(界)における閨閥にもっと多くの頁を割くべきでした。