「民主党」

 今回の総選挙で、民主党は「脱官僚主義」を掲げて、有権者からの強い支持を受けています。
 それに水を差すような記事が、昨日の朝日新聞朝刊に掲載されていました。題して、『政府に127議員 英の反省』というものです。
 ⇒ミニスター多すぎ弊害 下院委報告書

 「脱官僚主導」は、今回の総選挙の大きな争点の一つだ。そのなかで、民主党マニフェスト政権公約)に盛り込んだ、多数の与党議員を省庁に送り込むスタイルは英国式。ところがその英国で、「多すぎて弊害が目立つ」との議論が起きている。

 「明確な焦点を持つ政府にするには『ミニスター』を減らすことが必要だろう」
 今年6月、英下院の行政特別委員会が発表した「正しい政府」と題する報告書が英政界で論議を呼んでいる。
 同報告書は、多数の政府関係者や専門家などからヒアリングを重ねてこの10年ほどの英政府のありようを検証したもの。その中で、問題の最初に挙げられたのが閣外大臣、政務次官のいわゆる「ジュニア・ミニスター」の数が多すぎる点だ。報告書は「現行制度は弊害となりうる」としている。
 英政府には二十数人の閣僚(日本の大臣に相当)のほか、多数の閣外相、政務次官(日本の副大臣政務官に相当)が送り込まれている。70年代、政府が大きくなるにつれて官僚を指揮する議員ポストも増え、100人を超えた。ブラウン現政権では、複雑化する課題に対応するため、として過去最高の127人(5月末時点)にのぼる。
 報告書が指摘する問題の一つは、ポストを与えられた議員がその後の出世のための「手柄づくり」に奔走すること。任期は1年足らず。知識も経験も乏しいが「実績を残さなければ」との意識が働き、世論やメディアを意識して注目されやすい政策ばかりを打ち出そうとする傾向が目立つ。やたらと記者会見を開きたがるのも特徴という。
 省庁側に負担を強いているという問題点も指摘されている。上級公務員の労組、FDAのジョナサン・ボーム事務局長は委員会に「閣外相らの数だけ彼らが満足する何らかの仕事を作り出さなければならない」と話した。
 労働党のクリス・マリン議員は過去に3回、政務次官を務めた経験があるが、その期間中、「一度も政策的な決定にかかわることを求められなかった」と言う。政府に入っていない時の方が、所属省庁の所管に縛られず、関心のある問題について自由に発言でき、政治家として「よりパワフルだった」と話す。
 現在、与党・労働党の下院議席は349。4割近くが政府に入っていることになる。議会のチェック機能の低下を懸念する指摘もある。

 ●歴代首相、官邸の権限強化
 政治家を政府に多数送り込むことによる官僚制御の傍らで、歴代首相は意思決定の効率化を進めてきた。
 79年に首相に就いたサッチャー氏は省庁内の意思決定ルートを簡素化して局長級に情報を集中させて素早く大臣経由で首相に集め、国営企業民営化などをトップダウンで断行した。97年に政権を奪回した労働党のブレア首相は、長年保守党と働いた官僚よりも官民の人材を特別顧問として重用。米国的な政治を築いた。
 ブラウン現首相は就任後の07年7月、「英国の統治」という文書を発表。ブレア時代に官邸主導で議会を通さずに多くの権限を行使したことを認め、修正を試みている。だが、金融危機や議員経費乱用問題など緊急課題の連続で、首相周辺だけで対応する場面が続く。結果、閣外相・政務次官らはますます軽くなっている。
 報告書を作成した特別委のメンバーだったポール・フリン議員(労働党)は「民意を代表する政治家が政府に入って力を結集すれば、官僚にはできない大きな仕事ができる。だが、現実は逆になっている」と話す。
 (ロンドン=土佐茂生)

 ◆英国官僚…政治家との接触制限 行政に専念
 英国官僚は、所属省庁の大臣ら以外の政治家との接触が原則禁じられている。議員による官僚への口出しや圧力が横行した19世紀から、政・官の接触制限が進み制度化されていった。野党の政策に意見を表明したり、批判したりすることも禁じられている。
 日本のような、官僚の記者会見はない。国会議員への法案説明や国会質問の内容とりに走り回る必要はない。法案作成は別途採用された法律家に一元化され、法案作りに一般官僚が追われることもない。各省庁は夜になると職員はほとんどいなくなるという。
 与党との折衝や、省庁間調整、国民への説明などは大臣をはじめ政治家の仕事だ。政・官の分離と政権交代の繰り返しで、官僚は行政に専念できる環境ができていった。

 ◇民主、政治家主導へ転換強調 政権公約「政府に国会議員100人」
 民主党菅直人代表代行は6月に訪英し、政と官の関係を調べた。帰国後に報告書で「官僚の政治的中立性」が重要だと強調。首相を補佐する態勢の充実や、少数の閣僚で個別の政策を議論する閣僚委員会の導入を提案し、衆院選マニフェスト政権公約)にも反映された。
 与党・内閣の役職一体化により、首相主導で政策を決定する。国会議員100人が政府入りし、閣僚・副大臣政務官として連携。官僚から権限を取り戻す――。英国モデルを参考に民主党が目指すのは、そんな政権像だ。
 「英国モデルの欠点」は、党幹部の耳にも届いている。政治家を内閣に送り込みすぎれば、法案を成立させるための国会対策が手薄にならないか、といった懸念もある。あるベテラン議員は「100人も官僚を操れる議員がいるのか」と不安を漏らす。それぞれの政治家に力量がなければ、官僚側の言い分をうのみにし、各省庁の利益の代弁者にもなりかねない。
 それでも鳩山代表や菅氏が現在の政策決定システムの改革にこだわるのは「自民党族議員と官僚の一体化が進んだ日本の現状はひどすぎる」という認識があるからだ。
 鳩山氏は選挙戦で「明治以来、官僚内閣制が続き、新憲法の下で議院内閣制とはなったが、形だけだ。実質は官僚が支配する官僚任せの政治が続いた」と訴える。
 官僚が閣僚の国会答弁まで作って操り、予算獲得に向けて与党議員と共闘し、選挙活動にも協力する――。こうした政・官の癒着を、菅氏は「明治以来の古いビジネスモデル」と批判。政治家多数を送り込んだ内閣で、一元的に官僚と向き合わなければ打破できない、と主張する。
 菅氏は今月3日、横浜市でのマニフェスト説明会で、こう述べた。「現在、自民党政権でも国会議員約70人が閣内に入っており、100人というのは別にびっくりする数ではない。ただ、機能させようと思うと、質の問題が問われることは覚悟しておかなければならない」
 (北沢卓也)

 つまり、民主党が今回の選挙の結果、政権を取り、多くの議員を霞が関に送り込んでも、それを官僚は手ぐすねを引いて待っているのでしょう。