「『社会安全政策論』で発表」

 今日は、一橋大学大学院の授業『社会安全政策論』で、「防犯環境設計」について、発表を担当します。
 レジュメは、A4で3枚以内という決まりとなっております。ちなみに、そのレジュメは下記のとおりです。なお、注の部分は省略しました。

『防犯環境設計』(街頭犯罪、侵入犯罪等の抑止)発表日:2012/1/12

 「何の工夫も要らず安全な生活が満喫できる、という時代が終りを告げようとしている。日本は世界一安全、という国際的評価にも明らかに黄信号が点滅し始めた」 と記されたのは、1984年のことであるから、もはや28年も前のことになる。

 このように、日本においても安全が所与のものではなく、その構築が課題とされる言説があらわれたことを踏まえ、安全の構築に資すると考えられる、防犯環境設計とはどのようなもので、それをどのように活用すべきかを当リポートによって考えてみたい。
 なぜならば、「犯罪先進国アメリカにおいて、現在、最も新しい「犯罪防止手法」として、「環境設計による犯罪防止手法」が大いに注目を集め、盛んに実施されつつある」 からである。

1、環境設計による犯罪予防の定義
 犯罪を1書では、「限られた空間の中で、ある行為をしようとする場合に、その社会が必要と認めている手続きや制限を無視した逸脱行動」 と定めている。
 その犯罪を減少させるための学問の一分野が環境犯罪学であり、その始祖とされるのが、アメリカの犯罪学者、ジェフェリー博士(C.Ray Jeffery)である 。博士は、「犯罪の脅威から守られた安全な街づくり」 に資する、環境設計 による犯罪予防を提唱した 。それは、“Crime Prevention Through Environmental Design”(1971年)という同氏による著作タイトルを以てなされたものであり、それぞれの頭文字をとってCPTED(セプテッド)という略称でよばれるものである。
 CPTEDは、次のようにパラフレーズすることができる。「人間によってつくられる環境の適切なデザインと効果的な使用によって、犯罪に対する不安感と犯罪の発生の減少、そして生活の質の向上を導くことができるという考えに基づいている」 。
 なお、「ジェフェリーが使用する「犯罪予防」という概念は、(中略)犯意を起こす前にあきらめさせることを主眼とする。」 ものであり、その基本理念は、「パターナリスティックな社会的責任」である。

2-1、CPTEDの定義
 National Crime Prevention Institute(NCPI)(全国防犯研究所)によって使われているCPTEDの定義は、「つくられた環境の適切な設計と効果的な利用は、犯罪に対する不安感と犯罪の発生の減少につながり、生活の質の改善につながり得る」ものとされている 。
 ここで注目されるのは、CPTEDを導入することによって、住宅地でもビジネス地区でも、利潤が増進され、損失が減少し、「副産物は犯罪予防である」 ということである。

2-2、CPTEDの概念
 「CPTEDの概念は、少なくとも本書で取り上げるものは、大部分が自明の事柄ばかりである」 。
 「CPTEDプログラムの概念は、物理的環境を操作することによって、犯罪と犯罪に対する不安感を減らすための行動的効果を作り出せるとするものである。これらの行動的効果は、犯罪行動を助けるような傾向を減らすことによって達成されうる。」

 CPTEDを成功させるためには、これを空間の正当な利用者に容易に理解できる実用的なものにしなくてはならない。つまり、近隣の普通の住民や、ビルや商業地区で働く人々が、これらの概念を容易に利用できなければ、CPTED を導入する意味がなくなるからであり、その環境が適切に作用することに対しての既得権利(自分たちの福利)を持つからである 。

2-3、CPTEDの戦略
 CPTEDには、互いに共通する部分を持つ3つの戦略がある。
・自然なアクセスコントロール
・自然な監視性
・領域強化
 アクセスコントロールとは、罪を犯す機会を減らすことを狙いとした設計概念である。具体的には、組織的戦略としてガードマンの使用、機械的なものとして錠等が挙げられる。アクセスコントロール戦略として最も重要なことは、犯罪者による被害対象へのアクセスを否定し、犯罪者が自分の身に危険を感じるようにすることである 。詳細は、S26頁の図3-1「典型的なアクセスコントロールと監視性の概念と分類」を参照されたい。

3、「防犯環境設計」で守りを固める
 「犯罪の発生を5W1Hの形式で整理すると、Who(だれが)とWhy(なぜ)が犯罪原因論の対象となり、Where(どこで)とWhen(いつ)とWhat(何を)が犯罪機会論の対象となる。How(どのように)は、両方の対象になり得るものであり、例えば、Howが「銃器を使って」という場合には、その銃器を手に入れた側(需要者)に注目すれば犯罪原因論になり、銃器を与えた側(供給者)に注目すれば犯罪機会論になる。また、対人犯罪の場合には、Whatに替わってWhom(だれに)が犯罪機会論の対象となる。

 そこで、WhatとWhomを犯罪者の「標的」として一つにくくり、WhereとWhenとHowを犯行の「場所」として一つにまとめ、それぞれについて、犯罪に強い要素をこれまでの研究成果に基づいて導き出すと、表1(S59頁「犯罪に強い三要素」)のようになる。
表1でいう「抵抗性」とは、犯罪者から加わる力を押し返そうとするものであり、ハード面の恒常性(一定不変のこと)とソフト面の管理意識(望ましい状態を維持しようと思うこと)から成る。
「領域性」とは、犯罪者の力が及ばない範囲を明確にすることであり、ハード面の区画性とソフト面の縄張意識(侵入者を許さないと思うこと)から成る。言い換えれば、領域性は、犯罪者にとって、物理的・心理的に「入りにくい」ということである。

 「監視性」とは、犯罪者の行動を把握できることであり、ハード面の無死角性(見通しのきかない場所がないこと)とソフト面の当事者意識(自分自身の問題としてとらえること)から成る。言い換えれば、監視性は、周囲から犯罪者が、物理的・心理的に「見えやすい」ということである。これらが犯罪に強い要素であり、したがって、抵抗性と領域性と監視性が高ければ高いほど、犯罪機会が少なくなる。」

 「このうち、領域性と監視性のハード面を重視する手法が、欧米諸国で「CPTED」と呼ばれ、日本で「防犯環境設計」と訳されているものである 。」

4、安全・安心まちづくり
 「防犯環境設計は、学校、公園、道路、住宅などの抵抗性・領域性・監視性を高める手法である。したがって、防犯環境設計は、都市計画やまちづくり計画の中に取り入れられるべきものである。(改行)そのため、日本では、防犯環境設計への取り組みは、主に「安全・安心まちづくり」として推進されている。」

 この防犯環境設計への取り組みが、日本でも始まったが、「これを本格化するためには、防犯環境設計のスペシャリストを養成したり、防犯環境設計の標準化(規格化)を推進したりする必要がある。」

5、犯罪発生のための必須要因と犯罪抑制のための非営利組織の援助
 「犯罪発生が生じるためには、3つの要素が不可欠である(式1)。即ち、犯罪を働こうという意志を持った加害者、犯罪の被害者になるということを望んでいない被害者、そして、両者の遭遇を可能とする環境、の3要因である。」 つまり、この3要因のどれかを欠けさせることによって、犯罪の発生を抑制することができる。財政のことを考えれば、今後は公的セクターを補完する非営利組織等の援助を積極的に得ることを考えるべきである。

 今日は、一橋大学大学院の授業『社会安全政策論』で、「防犯環境設計」について、発表を担当します。
 レジュメは、A4で3枚以内という決まりとなっております。ちなみに、そのレジュメは下記のとおりです。なお、注の部分は省略しました。

『防犯環境設計』(街頭犯罪、侵入犯罪等の抑止)発表日:2012/1/12

 「何の工夫も要らず安全な生活が満喫できる、という時代が終りを告げようとしている。日本は世界一安全、という国際的評価にも明らかに黄信号が点滅し始めた」 と記されたのは、1984年のことであるから、もはや28年も前のことになる。

 このように、日本においても安全が所与のものではなく、その構築が課題とされる言説があらわれたことを踏まえ、安全の構築に資すると考えられる、防犯環境設計とはどのようなもので、それをどのように活用すべきかを当リポートによって考えてみたい。
 なぜならば、「犯罪先進国アメリカにおいて、現在、最も新しい「犯罪防止手法」として、「環境設計による犯罪防止手法」が大いに注目を集め、盛んに実施されつつある」 からである。

1、環境設計による犯罪予防の定義
 犯罪を1書では、「限られた空間の中で、ある行為をしようとする場合に、その社会が必要と認めている手続きや制限を無視した逸脱行動」 と定めている。
 その犯罪を減少させるための学問の一分野が環境犯罪学であり、その始祖とされるのが、アメリカの犯罪学者、ジェフェリー博士(C.Ray Jeffery)である 。博士は、「犯罪の脅威から守られた安全な街づくり」 に資する、環境設計 による犯罪予防を提唱した 。それは、“Crime Prevention Through Environmental Design”(1971年)という同氏による著作タイトルを以てなされたものであり、それぞれの頭文字をとってCPTED(セプテッド)という略称でよばれるものである。
 CPTEDは、次のようにパラフレーズすることができる。「人間によってつくられる環境の適切なデザインと効果的な使用によって、犯罪に対する不安感と犯罪の発生の減少、そして生活の質の向上を導くことができるという考えに基づいている」 。
 なお、「ジェフェリーが使用する「犯罪予防」という概念は、(中略)犯意を起こす前にあきらめさせることを主眼とする。」 ものであり、その基本理念は、「パターナリスティックな社会的責任」である。

2-1、CPTEDの定義
 National Crime Prevention Institute(NCPI)(全国防犯研究所)によって使われているCPTEDの定義は、「つくられた環境の適切な設計と効果的な利用は、犯罪に対する不安感と犯罪の発生の減少につながり、生活の質の改善につながり得る」ものとされている 。
 ここで注目されるのは、CPTEDを導入することによって、住宅地でもビジネス地区でも、利潤が増進され、損失が減少し、「副産物は犯罪予防である」 ということである。

2-2、CPTEDの概念
 「CPTEDの概念は、少なくとも本書で取り上げるものは、大部分が自明の事柄ばかりである」 。
 「CPTEDプログラムの概念は、物理的環境を操作することによって、犯罪と犯罪に対する不安感を減らすための行動的効果を作り出せるとするものである。これらの行動的効果は、犯罪行動を助けるような傾向を減らすことによって達成されうる。」

 CPTEDを成功させるためには、これを空間の正当な利用者に容易に理解できる実用的なものにしなくてはならない。つまり、近隣の普通の住民や、ビルや商業地区で働く人々が、これらの概念を容易に利用できなければ、CPTED を導入する意味がなくなるからであり、その環境が適切に作用することに対しての既得権利(自分たちの福利)を持つからである 。

2-3、CPTEDの戦略
 CPTEDには、互いに共通する部分を持つ3つの戦略がある。
・自然なアクセスコントロール
・自然な監視性
・領域強化
 アクセスコントロールとは、罪を犯す機会を減らすことを狙いとした設計概念である。具体的には、組織的戦略としてガードマンの使用、機械的なものとして錠等が挙げられる。アクセスコントロール戦略として最も重要なことは、犯罪者による被害対象へのアクセスを否定し、犯罪者が自分の身に危険を感じるようにすることである 。詳細は、S26頁の図3-1「典型的なアクセスコントロールと監視性の概念と分類」を参照されたい。

3、「防犯環境設計」で守りを固める
 「犯罪の発生を5W1Hの形式で整理すると、Who(だれが)とWhy(なぜ)が犯罪原因論の対象となり、Where(どこで)とWhen(いつ)とWhat(何を)が犯罪機会論の対象となる。How(どのように)は、両方の対象になり得るものであり、例えば、Howが「銃器を使って」という場合には、その銃器を手に入れた側(需要者)に注目すれば犯罪原因論になり、銃器を与えた側(供給者)に注目すれば犯罪機会論になる。また、対人犯罪の場合には、Whatに替わってWhom(だれに)が犯罪機会論の対象となる。

 そこで、WhatとWhomを犯罪者の「標的」として一つにくくり、WhereとWhenとHowを犯行の「場所」として一つにまとめ、それぞれについて、犯罪に強い要素をこれまでの研究成果に基づいて導き出すと、表1(S59頁「犯罪に強い三要素」)のようになる。
表1でいう「抵抗性」とは、犯罪者から加わる力を押し返そうとするものであり、ハード面の恒常性(一定不変のこと)とソフト面の管理意識(望ましい状態を維持しようと思うこと)から成る。
「領域性」とは、犯罪者の力が及ばない範囲を明確にすることであり、ハード面の区画性とソフト面の縄張意識(侵入者を許さないと思うこと)から成る。言い換えれば、領域性は、犯罪者にとって、物理的・心理的に「入りにくい」ということである。

 「監視性」とは、犯罪者の行動を把握できることであり、ハード面の無死角性(見通しのきかない場所がないこと)とソフト面の当事者意識(自分自身の問題としてとらえること)から成る。言い換えれば、監視性は、周囲から犯罪者が、物理的・心理的に「見えやすい」ということである。これらが犯罪に強い要素であり、したがって、抵抗性と領域性と監視性が高ければ高いほど、犯罪機会が少なくなる。」

 「このうち、領域性と監視性のハード面を重視する手法が、欧米諸国で「CPTED」と呼ばれ、日本で「防犯環境設計」と訳されているものである 。」

4、安全・安心まちづくり
 「防犯環境設計は、学校、公園、道路、住宅などの抵抗性・領域性・監視性を高める手法である。したがって、防犯環境設計は、都市計画やまちづくり計画の中に取り入れられるべきものである。(改行)そのため、日本では、防犯環境設計への取り組みは、主に「安全・安心まちづくり」として推進されている。」

 この防犯環境設計への取り組みが、日本でも始まったが、「これを本格化するためには、防犯環境設計のスペシャリストを養成したり、防犯環境設計の標準化(規格化)を推進したりする必要がある。」

5、犯罪発生のための必須要因と犯罪抑制のための非営利組織の援助
 「犯罪発生が生じるためには、3つの要素が不可欠である(式1)。即ち、犯罪を働こうという意志を持った加害者、犯罪の被害者になるということを望んでいない被害者、そして、両者の遭遇を可能とする環境、の3要因である。」 つまり、この3要因のどれかを欠けさせることによって、犯罪の発生を抑制することができる。財政のことを考えれば、今後は公的セクターを補完する非営利組織等の援助を積極的に得ることを考えるべきである。