「言ってはいけない言葉」

 言葉は、怖いもので、口に出したその刹那、兇器となってしまうことがあります。
 直近では、柳沢厚労相の、「女性は子どもを産む機械」という発言がそれに当たります。

 『波』(2007年1月号)に掲載されている、吉岡忍の「小田の目に涙」を読んでいたら、小田実ベ平連の活動をしていた当時、鶴見俊輔が「私は小田の家来だった」という発言に、小田は、「おれの家来だったなんて、あの言い方はないだろう。おれは、おれたちは、そんなつもりでやってきたんじゃない。吉岡、おまえ、そんなふうに思ったことはないやろ?おれたちはみんな、平等でやってきたんじゃないか」と言って、小田実は、泣いた、というのです。

 あの、鶴見俊輔がどうして、そんな発言をしたのか、その真意は測りかねますが、どう考えても、鶴見の発言はおかしい。
 小田実が泣きたくなるのも、無理からぬことです。

 たとえば、小津安二郎ならば、そんな言葉は絶対に口には出さなかったことでしょう。
 なぜならば小津は、“なんでもないことは流行に従い、重大なことは道徳に従い、芸術のことは自分に従った”のですから。