「『みどりのHATS』に寄稿」

 「みどりのHATS」という環境団体が町田にありますが、らん丈は今年度その役員(連絡・渉外)を担当しているために、会報への寄稿を求められました。
 そこで、話題のアル・ゴアによる『不都合な真実』について、レポートを記しましたので、それを転載します。

 前々回の米国大統領選挙で、民主党候補として立候補、ブッシュ現大統領に惜敗し、それ以前はクリントン政権の副大統領を2期8年勤めたアル・ゴアは、1970年代から地球温暖化に関して並々ならぬ関心を示しており、その造詣の深さは米政界屈指のものだそうです。
 そのゴアが、地球温暖化に関するドキュメンタリー映画不都合な真実 (An Inconvenient Truth)」に出演しました。
 この映画は2006年5月24日にロサンゼルス、ニューヨーク、バークリー、キャンベル、サンノゼ近郊の限られた映画館で公開されたそのわずか数日後には、今度は全米で公開されるようになり、今年の米アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞候補にノミネートされました。
 映画には、ゴアの最近の講演が含まれている他、ゴアの談話と研究が紹介されています。
 この映画に対する環境問題の専門家からの評価は概ね高く、すでに米国内では600以上の映画館で公開されており2006年7月現在、ドキュメンタリー映画としては米国映画史上3番目の興行成績を収めています。
 なお、日本では1月20日から全国展開のロードショーがすでに始まっています。
 ゴアはまた、同名の本も出版しており、日本では枝廣淳子訳でランダムハウス講談社から刊行されています。
 同書は2月11日現在、2,940円という高価格にもかかわらず、11刷も版を重ね、12万部も売れています。
 それによれば、たとえばキリマンジェロ山は1970年には雪と氷河に覆われていたのが、今では雪が山頂部をわずかに覆うのみですし、多くの人びとに飲み水を供給しているヒマラヤの氷河も溶け始めており、その影響もあり、今後50年のうちに世界の40%の人びとが「深刻な飲み水不足に直面する可能性がある」と言及しています。
 グリーンランドの氷も急速に溶けています。もしグリーンランドの氷が全部溶けると海水面が5.5〜6mも上昇してしまい、多くの都市やなかには国家が、海中に沈んでしまうことになります。
 環境問題に関する本は、あまり売れないと、翻訳権を取るかどうか迷っていたところ、別な仕事で会っていた著名な投資家で社会的な発言も多いジョージ・ソロス氏に、「ゴアの本は必ずやれ」と言われ、翻訳権の取得を会社として決断したそうです。
 映画におけるゴアは、じつに生き生きとしており、「かつて次期大統領といわれた私です」という自嘲的なギャグを入れたりしていますが、ゴアはなんと1989年から1,000回以上も環境に関する講演会を開き続けているのだそうで、その集大成の趣があります。
 映画によれば、産業革命開始までの65万年間、二酸化炭素の濃度が300ppmを越えたことは一度もなかったのに、現在の二酸化炭素濃度は過去65万年のどの時点よりも、ずば抜けて高いものとなっているのだそうです。
 それを実感させるために、ゴアはクレーンに乗って上昇し(一度落ちたこともあるという)、跳ね上がったグラフの先を指し示します。
 ただこの映画、国際ジャーナリストの小西克哉さんにいわせると、二つの点で説得力を半減させているというのです。
 一つは、ゴア氏の人間描写。愛息の事故や肺がんによる姉の死。少年時代のテネシー山河。情緒的吸引力を狙った回想は両刃の剣だというのです。
 一人孤独にトランクを持って世界を巡業する元副大統領の姿は、「リベラルなエコフリーク」「オゾン男の福音宣教師化」と揶揄されかねないといっています。
 二つ目は、政治。
 「過去10年専門誌に出た論文で温暖化の原因を疑うものが皆無なのに対して、メディアでは53%の記事が懐疑的な内容だった」という趣旨の論文(N・オレスケス「サイエンス」04年12月)を引用し、専門家の意見が分かれているとする考えを退け、温暖化の原因は二酸化炭素だとする見解にコンセンサスがあると主張する。
 専門家に異論はないのに世論に賛否があるのは、ブッシュ政権の情報操作のためで、タバコ業界の広報戦略と同一だという、じつに面白い論点を、ゴアはさらっと流してしまい、政治性を薄めてしまっているのです。
 それにしても、ゴアさん、政治家時代に較べると格段に太りましたね。
 よほど、この環境行脚が性にあっているのでしょう。