「戦場の真実」

 マシュー・カリアー・バーデン著『ブログ・オブ・ウォー』(島田陽子訳、メディア総合研究所)によると、米軍はイラク開戦当初、兵士の士気高揚に資するようにと、インターネットへのアクセスを無制限に認めていたそうです。

 そのために、兵士はブログやウェブサイトに、大量の書き込みを続けた。
 本書は、そんな彼らの「生の声」を集めたものという。(久田恵・評;朝日新聞読書欄7月15日)

 イラクへ赴く兵士は、「テロとの闘い」に身を投じることは、「祖国アメリカのため」「イラクの人々のため」と書く。
 中には、自分は「正義」をなすために、神に遣わされるのだ、とまで記す兵士もいたという。

 ところが、ベースキャンプを一歩出れば、そこは戦場。
 いつ自分が銃撃されるか。
 いつ爆弾が炸裂するか。

 兵士たちはたちまち、自分が戦うのは「国のため」でも、「金のため」でも、「神のため」でもなく、共に身を危険にさらされている仲間のためだと言い始める。
 「なぜなら、僕らはこのクソ溜めに一緒に放り込まれた仲間だから」

 銃撃戦で初めて人を殺した兵士は書く。
 「仕事なんだ、悪く思わないでくれ」
 「人殺しが僕の仕事だ」

 切羽詰った兵士に、自国を戦場とされた人々の苦難と絶望を思いやるゆとりがあるはずがない。

 2005年、米軍は機密保持を理由に、兵士のブログへのアクセス規制に乗り出した。
 したがって、このような本が出版されることは、もう二度とない、と評者の久田恵は記す。