「『現代人権論研究演習』研究発表」

 昨日は、早稲田大学大学院社会科学研究科「現代人権論研究演習」1で、らん丈が研究発表の担当でした。
 今回は、『公務員の分限・懲戒について』というタイトルで行いました。

1 はじめに
 公務員は誰一人として雇用保険に加入していないという事実にまみえたのは2001年度、当時在学していた立教大学経済学部で、「社会政策論」の講義を受講した折のことである。

 すなわち公務員は、公共団体と雇用関係を結んだうえは、免職等の分限処分を受けない限り、退職時までその身分保障は継続されるために、雇用保険に加入する合理的な理由がそこに見出せないため、雇用保険に加入していないのである。

 それが証拠に、2004年度における免職された国家公務員一般職公務員は、約65万人のうちわずか35人を数えるのみであった。
 その免職者も多くは行方不明者だったため、「適格性」を問われた者はほとんどいない、というのが現状である。

 ならばすべての公務員は、「官職に必要な適格性を欠」いておらず勤務しているのであろうか。

 たとえば、女性を乱暴し2007年11月26日、財務省から懲戒処分を受けた元係長と元職員は、どう考えても、公共団体に資する公務員とは言い難い。

 これが、自由業従事者であれば、たとえ劣悪な従事者といえども公共空間にはさほど害悪を及ぼさない。

 それ以前に、劣悪な自由業者は市場の信認を得ない限り、淘汰されてしまうのはごく当然のことである。それをマルクスは、「命がけの飛躍」とよび、失敗すれば商品でなくなる可能性のある、なんとしてもやり遂げなければならない離れ業と記している。
 しかし、公務員と市場性は乖離した関係にある。

 懲戒処分を受けるに足る企業人がいた場合、その企業人がたとえ懲戒処分を受けなくとも、一企業に経済的損失を及ぼす限定性をもつ存在に過ぎないが、これが公務員となると、懲戒処分を受けるに足る公務員が懲戒処分を受けない場合には、その公共団体全体の不利益となるので、企業人以上の大きな損失を公共空間に波及させることになる。

 その是非を問うのが小稿の目的ではなく、法的に、どのような公務員が分限処分を受けるのが相当なのか。
 それを知りたく、今回稿を起こした次第である。

 また、公務員の人権伸張の立場からも、分限・懲戒処分について考えてみたいのである。

 故ジェームズ・アベグレンは、『日本の経営』(1958年)で、年功賃金、企業別組合、終身(長期)雇用が、日本の雇用制度における際立った特長であるとして、これらを「3種の神器」であると指摘した。

 しかし、執筆時から半世紀を経た今日の日本では、「3種の神器」はもはや形骸化し、当時の機能を保全していないというのが、経営学における共通した認識とされている。
 むしろ雇用者においても、職業の流動性を選好し、固定的な雇用関係を上位に置かない価値観が胚胎され、それが広く社会に流露し、各人に浸潤した観すらある。

 その例はいくらでも挙げることができるが、たとえば、プロ野球におけるFA(フリーエージェント)を受容するようになったファン気質が一例である。

 あるいは、就社した新規卒業者のうち3割は、3年以内に離社するという現実。
 このように半世紀前からは相当程度変質した社会においては、公務員の雇用環境も変化し、雇用の流動性を確保する観点から、長期的に雇用関係を維持させるのは、広く認知された認識とはいえないまでも、公務員の人権を無視するがごとき言説とするのも可能かと考えられる。

 もちろんこの考えは広く共有されているわけではなく、公務員は公共団体と固定的な雇用関係を維持したいと考える者が未だに大多数を占め、筆者の単なる個人的見解と非難される可能性もある。しかし、筆者がこのような考えを持つに至ったのもまた紛うことなき事実なのである。

 ただ、公務員の雇用の流動性については、平成の今日に始まったことではなく、たとえば、明治初期に官吏となった尾崎行雄は、明治14年の政変に巻き込まれ、官吏を辞した後、衆議院議員となって25期連続当選する。尾崎が官吏であれば、後年の「憲政の神様」、「議会政治の父」は生まれないことになる。

 このような次第によって、雇用の流動性が高いほうが公務員の人権を伸長させることになるとの観点に、筆者は立つものである。

 ここが最も肝要なことであるが、公務員の給与は税金によって支払われるということである。
 それは、議員と有権者の関係を見れば明らかである。議員という特別職の公務員は有権者の信認を得られない限り、その任に就くことは不可能であるが、一般職の公務員は市場性と共に、税負担者の信認すら得なくともその職を全うできるという立場にある。
 何れにしろ、小稿の目的は、市民にとって資する公務員の存在を考究することにある。
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