「声に惚れる」

 中井久夫さんが「図書」に随時連載している『私の日本語雑記』16を読んでいたら、面白い記述に目が留まりました。

 それによれば、中井さんの曽祖父は、曾祖母に首ったけになったそうですが、どこに惚れて結婚を申し込んだのかというと、「曽祖父は、曾祖母の声に惚れて通いつめて結婚した」のだそうです。

 つづけて、「周知のごとく、容貌は移ろうが声は数十年を隔ててもそのままなのである。声は変らない一種の容貌なのである。指紋である」と記されており、たしかに、そうだわい、と思った次第です。

 松本清張に、『声』という名短編もありますし。