「経済危機がロマ人迫害に拍車」

 去る7日の朝日新聞GLOBEによれば、ロマとよばれる、中世にインド北西部から欧州に移住した少数民族への襲撃事件が、ハンガリーで頻発しているそうです。下記に記事転載。

グローブ22号<欧州連合の耐久力>揺らぐ「欧州市民」共生の理念


 ●経済危機、ロマ人迫害に拍車 東欧諸国で殺害、襲撃事件 TATARSZENTGYORGY,Hungary
 共産主義時代の東欧では誰もが職に就き、社会的差別は見えなかった。だが、資本主義の導入とEU加盟で職にあぶれた「負け組」が都市部から追いやられ、経済危機の追い打ちで不安を感じた人々は、新たなスケープゴートを探し始めた−−。
 ハンガリーの首都ブダペストから南へ約50キロのタタールセントジョルジ。うっすらと雪が残る2月下旬のある晩、若い夫婦と子供3人が住む一軒家が炎に包まれた。少数民族ロマを狙った襲撃事件だった。
 焼け跡で、チャバ・チョルバ(48)はつぶやいた。「みんな平和を愛するふつうの人間だった」。2年前、息子の建設作業員ロベルト(27)が建てた念願の家だった。
 その晩、近くに住むチャバが3発の銃声に跳び起きて駆けつけると、燃えさかる家の前でロベルトと5歳の長男が血だらけで息絶えていた。長男には顔や首まで散弾銃が18発も撃ち込まれていた。
 「黒いマスクと制服姿の男4人に撃たれた」。右肩と脇腹を負傷した長女のビヤンカ(6)は、近くの森に逃げ込んで一命を取りとめたが、今も眠れない日が続く。
 ロマは中世にインド北西部から欧州を中心に世界各地に移り住んだ少数民族で、欧州全体で計600万〜800万人。ハンガリー科学アカデミーの推計では、同国の人口約1000万のうち約60万人がロマとされるが、出生届や市民登録をしないケースも多く、実態はつかめない。
 昨年1月以降、ロマを標的とした襲撃事件が少なくとも17件起き、6人が殺害、50人以上が負傷した。犯行はいずれも未明に車で乗り付け、火炎瓶で家に火を放ち、家人が逃げ出してきたところを散弾銃で狙い撃ちする手口。警察は、100人態勢の特別捜査チームを立ち上げて、有力情報に1億フォリント(約4600万円)の賞金をかけて捜査した結果、8月下旬にようやく4人の容疑者を逮捕した。警察本部の報道官は「人種差別が理由とみられる」と説明するが、一連の事件の全容解明はこれからだ。
 ハンガリーは「東欧の優等生」と呼ばれ、EU加盟後も経済成長を続けていた。だが、金融危機後に通貨フォリントが急落。6月の欧州議会選では、ロマ排斥を掲げる極右勢力が躍進した。
 ブダペストのロマ支援団体のアラダー・ホルバスは「人びとの心にくすぶっていたロマへの差別が、経済的な苦境や政情不安とともに一気に噴き出した」という。
 約30万人のロマを抱えるチェコでも4月、若いロマ夫婦の家が焼き打ちされ、2歳の女児が体の8割を超える大やけどを負った。チェコでは、差別の激化に耐えかねて他国へ逃れるロマが急増。特にカナダへの難民申請は今年上半期ですでに1720人に上り、すでに昨年1年間の2倍近くに達しているという。
 (玉川透)

 改めていうまでもなく、弱者への襲撃は、許されないことです。