「丸谷才一『袖のボタン』」

 2月7日朝日新聞掲載の丸谷才一による『袖のボタン』は、久方ぶりに面白いものでした。

 そこで丸谷は、日本海軍では自ら爆沈した軍艦が5隻もある、というのは、世界的に極めて稀有なことだと、言うのです。

 それは、中井久夫によれば、「少なくとも半数は制裁のひどさに対する水兵の道連れ自殺という噂が絶えない」のだそうです。

 続けて、丸谷は「(旧日本軍では)リンチは教育の手段として黙認されていたが、実は徴兵制度によって強制的に自由を剥奪されている者が、鬱憤を晴らすためのサディズムであった」と、記します。

 それが自衛隊にも引き継がれ、たとえば、2004年度には、94人もの自衛隊員が自殺している。

 最後に丸谷はこう記す。「どうやら近代日本人は軍隊という厄介な組織を持つのに向いていないらしい。」