「中井久夫『私の日本語雑記』」

 岩波書店の「図書」に連載中の、中井久夫『私の日本語雑記』が、快調です。

 たとえば、ブラジル人の女性のこんな言葉を、引いています。
 “日本語って便利ですね、誰かにある主張をしながら表情ををみていて、相手の表情から「あ、まずい、相手の見解は反対だ、(中略)」と判断すると最後のところで、「……というようなことはありません」とか(中略)ひっくり返せばよいのだから。”
 こうして、“最後まで決まらない、いや決めないのがよい日本語”という結論が導かれる。

 “日本語のセンテンスを聞いてきて、いちばんどこが緊張するかというと、(中略)「あのー」の先が読めない時であるようだ。”

 “言語を学ぶことは世界をカテゴリーでくくり、因果関係という粗い網をかぶせることである。”

 “言語は葛藤を生む。”

 “一神教とは神の教が一つというだけではない。言語による経典が絶対の世界である。そこが多神教アニミズムと違う。”

 “同時に二つのことを言えないというのは、大きな限界でもあり、精神の安全保障でもある。”

 含蓄に富んだことばの、数々です。