「金融ビッグバンが起こった理由」
金融ビッグバンが、日本でどうして起こったのか。
大蔵省(現・財務省)主導説、金融業界主導説、自民党主導説など諸説入り乱れています。
それぞれの説明は、突き詰めれば対立しているのですが、それぞれなるほどと思わせもします。
これに対して戸矢哲朗著『金融ビッグバンの政治経済学』(東洋経済新報社)によれば、アクターの行動原理に関する前提を明示し、それに基づいて徹底的に説明しようとします。
それは、合理的選択アプローチを採用してるようですが、著者の真骨頂は、官庁の目的を、規制権限や予算の最大化ではなく、「名声の最大化」ととらえているところです。
その説明するところによれば、スキャンダルと失政のなかで、大蔵省と自民党に対する「公衆」の信頼が失墜し、組織存続の危機にさらされた両者は金融業界の利益に優先して、公衆の利益を追求することにし、公衆の支持を回復するためにビッグバンを行った、というのです。
なるほど、公衆の支持を得るために、窮地に追い込まれた大蔵省と自民党は、まず公衆の利益を第一に考えた、その観察眼には、民主主義への期待と信頼、そしてエリートとしての責任感が快く伝わってきますが、大蔵官僚であった著者の戸矢氏は、弱冠28歳にして2001年6月にご逝去なさっていて、痛憤いかばかりかとの思いを抱かされます。