「修士論文中間発表」

 ぼくは今年、早稲田大学大学院法学研究科に入学しました。
 したがいまして、順当に学修すると、来年度修了ということになります。
 そのための、修論作成にあたっての修士1年生としての中間発表が今日行われます。
 らん丈の内容は、下記の通りです。

2009年度 法学研究科
修士論文計画中間発表
2009年7月4日「社会保障社会福祉の法と政策」
提出者 氏名:三遊亭らん丈  
論文題目 「地方公共団体の議会の議員の年金に関する一考察」(仮称)
1.論文のテーマと構成(章立て)
1、まえがき
2、国会議員の歳費と地方公共団体の議会の議員(以下、「地方議会議員」という。)との報酬の相違

2-1 憲法と法にみる国会議員
日本国憲法49条 両議院の議員は、法律の定めるところにより、国庫から相当額の歳費を受ける。

国会法35条 議員は、一般職の国家公務員の最高の給与額(地域手当等の手当を除く。)より少なくない歳費を受ける。

同 法36条 議員は、別に定めるところにより、退職金を受けることができる。

2-2 法にみる地方議会議員
2-2-1 地方議会議員の職
 「地方公共団体の議会の議員は特別職である。」(『新版 逐条地方公務員法』橋本勇、学陽書房、2002年、55頁)
地方公務員法3条 地方公務員(地方公共団体及び特定地方独立行政法人地方独立行政法人法(平成15年法律第118号)第2条第2項に規定する特定地方独立行政法人をいう。以下同じ。)のすべての公務員をいう。以下同じ。)の職は、一般職と特別職とに分ける。
  3 特別職は、次に掲げる職とする。
1.就任について公選又は地方公共団体の議会の選挙、議決若しくは同意によることを必要とする職

2-2-2 地方議会議員の兼職禁止
 「地方公共団体の議員が兼職を禁止され、又は地方公共団体の議員との兼職が禁止されているのは、次のとおりである。?衆議院議員又は参議院議員地方自治法92?・国会法39)、?他の地方公共団体の議員(地方自治法92?。(略))?地方公共団体の常勤の職員(地方自治法92?)、?普通地方公共団体の長(地方自治法141?)、?副知事又は助役(地方自治法166?による141の準用)?まであるが以下略」(『要説 地方自治法』〔第四次改訂版〕松本英昭、ぎょうせい、2005年、273-4頁)

2-2-3 地方議会議員の報酬の位置づけ
 労働基準法9条 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
 10条 この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。
 11条 この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。

 後述する地方自治法203条が適用される地方議会議員は、労働基準法における「使用」性と「賃金」性の2点をともに満たしていないため、労働基準法が適用される「労働者」ではない。

e.g.生活給としての視角からの考察、議員に常勤並みの活動を期待するのか、地方議会議員には退職金がない、福島県矢祭町議会議員は日当制

3、国会議員の年金
 3-1  e.g.国会議員年金の廃止法案が2006年2月3日の参院本会議で可決、成立し、2006年4月1日施行された。

4、地方議会議員の年金
 4-1 地方議会議員の年金の概要
  地方公務員等共済組合法 第11章 地方議会議員の年金制度
   (地方議会議員共済会)
151条 次の各号に掲げる地方公共団体の議会の議員(以下「地方議会議員」という。)の区分に従い、当該各号に掲げる地方議会議員をもつて組織する当該各号に掲げる地方議会議員共済会(以下「共済会」という。)を設ける。

1.都道府県の議会の議員
都道県議会議員共済会
2.市(特別区を含む。以下この章において同じ。)の議会の議員
市議会議員共済会
3.町村の議会の議員
町村議会議員共済会

2 共済会は、法人とする。

3 共済会は主たる事務所を東京都に置く。

 4-2  e.g.「世界的にも類例がない特権的な制度」渡部記安(わたなべのりやす)(立正大学社会福祉学部)教授

 4-3 地方議会議員年金制度検討会、第29次地方制度調査会の動き

5、「被用者年金の一元化等を図るための厚生年金保険法等の一部を改正する法律案」への考察
 平成19 年4月13 日に上記法案は、閣議決定され、第166回国会に提出された。その提出理由は下記のとおり。

今後の被用者年金制度の成熟化、少子高齢化の一層の進展等に備え、当該制度について、公的年金制度の一完化を展望しつつ、制度の安定性を高めるとともに、民間被用者及び公務員を通じ、将来に向けて、保険料負担及び保険給付の公平性を確保することにより、公的年金制度全体に対する国民の信頼を高めるため、公務員及び私立学校教職員についても厚生年金保険制度を適用する措置を講ずる等のほか、短時間労働者への厚生年金保険制度の適用拡大、厚生年金基金制度、確定給付企業年金制度及び確定拠出年金制度の改善等の措置を講ずる必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。(国会提出日:平成19年4月13日 衆議院 内閣法制局
同法案は、第171回国会平成21年7月1日においても継続案件。

6、地方議会議員年金制度に要請されるもの
 6-1 地方議会議員年金は廃止すべきなのか存続させるべきなのか
 6-1 廃止すべき場合の問題点
 6-2 存続させるべき場合の問題点

6、あとがき

2.問題関心
 わが国の国会議員は、憲法49条により、「歳費を受ける」者であり、歳費とは、「一年を基準としての金額を定める支給金をいう。(略)(ロ)歳費は、議員の勤務に対する報酬たる性質を有する。」(『全訂 日本国憲法宮澤俊義芦部信喜日本評論社、1978年、373-4頁)とされている。なお、議員の歳費について、「議員に歳費を与えることはむしろ否定的に考えられたが、しかし、議員たる職務に従事することは、その者の他の仕事に多くの犠牲を与えることであり、これに全然歳費を与えないということになると、実際には、無産者に対して議員となることを禁ずる結果になり、また、議員が金の面で不当に政党その他のボスに支配されるという弊害も生ずるおそれがあるので、しだいに国庫からこれに歳費を与えるという原則が行われるようになってきた。」(上掲書、372-3頁)との説明もある。

 それに比して、地方議会議員は、地方自治法203条1項によって、つぎに記す報酬が支給される者である。「普通地方公共団体は、その議会の議員に対し、議員報酬を支給しなければならない。」そこで、報酬とは何かが問題視される。「報酬とは、本条では、議会の議員が行う勤務に対する反対給付である。役務の対価である点で(2項にある)「費用の弁償」と区別され、生活給ではない点で、常勤職員への「給料」とは区別される。」(『注釈地方自治法』〈全訂〉第一法規、藤原淳一郎、3725の2)とある。

 つまり、地方議会議員が受ける報酬とは、地方自治法上「生活給ではない」のである。
 したがって、議員報酬は、日当制にしたほうが、「議員に経済的な魅力がなくなり、議員本来の仕事に魅力を感じて立候補する人がさらに増えるのではないか」(片山善博・慶大教授、2008.3.15朝日新聞[朝])という意見がでるが、それに反して「日本の市町村は規模が大きくなってかなり専門性を要するので、軽々に無給にすればいい、という議論にはならない」(名和田是彦・法大教授、同上)という意見もでる。日当制に関しては、上記藤原教授はつぎの解釈を付す。「かつて市町村議会の議員報酬につき、年酬が適当であるとの行政実例がある(昭和21年12月27日地発乙641号)が、現行法解釈の決め手にはならないと、私(藤原)は考える。」(上掲書、3725の3)

 議員報酬でさえこのように、議論百出であるが、それを踏まえたうえで、それを因にした議員年金について論を進めていきたい。

 翻って、(地方議会)議員の主たる活動の舞台である議会、その招集に目を転じると、地方自治法にはつぎのように記されている。「102条 普通地方公共団体の議会は、定例会及び臨時会とする。2 定例会は、毎年、条例で定める回数これを招集しなければならない。3 臨時会は、必要がある場合において、その事件に限りこれを招集する。」

 現在のところ、条例上ほとんどの地方公共団体での議会は、改正前の地方自治法にあったように、年4回の定例会が開会され、一定例会での会期は通常約1ヶ月である。したがって、議会活動は年間約4ヶ月程度であるため、議員は非常勤の職と考えられるが、その報酬の対象とされる活動は、多くの地方公共団体では明確化されていない。このような地方議会議員にとって、独自の年金である「地方議会議員年金制度」は、どのように構築されるべきものであるのか、あるいは廃止すべきものであるのか、それを本論文において考察することに筆者の関心はある。

3.分析対象・史資料
地方議会議員年金制度検討会」議事録(総務省HP)
「第29次地方制度調査会」議事録
村松岐夫伊藤光利『地方議員の研究』(日本経済新聞社、1986年)
渡部記安『21世紀の公私年金政策』(ひつじ書房、2003年)
建林正彦『議員行動の政治経済学』(有斐閣、2004年)
山崎正『地方議員の政治意識』(日本評論社、2003年)