「元日の新聞広告から」

 ぼくは何度も記しているように、新聞は“朝日”です。
 その第一の理由は、日本の新聞では出版広告に最も多くの紙面を提供しているからです。

 たとえば、毎年元日に岩波書店が朝日の一面を借り切って広告を打ちますが、これは朝日のみで、他紙では行っていないのではないかしら。
 今年の岩波書店の広告は、1989年から刊行を始め、昨年完結した『新 日本古典文学大系』(全百巻・別巻5、計105巻)の広告が中心でした。
 ほかに、『フロイト全集』の企画が目を引きます。
 その編集の一翼を担う、鷲田清一(阪大副学長)は、同じく岩波の『シリーズ身体をめぐるレッスン』でも、編集委員を勤め、気を吐いています。

 元日でほかに、目を引いた記事は、文化欄での「膨らむ欲望ITが加速」と題した、橘木俊詔(京大教授)と西垣通(東大教授)との対談です。
 そこで橘木は、“経済学では、競争が資源配分を最適にすると考える。しかしそれが行き過ぎるとウイナーズ・テーク・オールになるため、何らかの歯止めが必要だとされている。日本はこれまで政府の規制や管理があり、競争がなかった。規制を外すほうがいいという風潮になったけれど、それがやや行き過ぎたのでしょう。でもIT企業の経営者たちは、マスメディアでヒーロー視されるし、ホリエモンはアイドル的人気です。”と、発言しています。

 つまり、ここで二人は、膨らむ日本人の欲望に警鐘を鳴らしているのですが、同じ元日の紙面で朝日は、「いま四畳半からヒルズへ」と題し、年収5億円の、NIGOさんを採り上げるという、撞着を発揮しています。

 本日記の12月22日でも採り上げましたが、藤原正彦お茶の水女子大学教授)の、『国家の品格』の広告がやはり元日の朝日に載っていました。
 その最後の言葉が、紙面を飾っています。

 「日本人は貧しい。しかし高貴だ。世界でただ一つ、どうしても生き残って欲しい民族をあげるとしたら、それは日本人だ」ポール・クローデル(1943年パリにて、詩人・元駐日フランス大使)